2013/08/10

「三陸の未来を語ろう」東京海洋大学にて

2013年8月4日(日曜日)、東京海洋大学にて環境復興機構の主催のシンポジウム「三陸の未来を語ろう〜防潮堤問題から日本の未来を考える〜」が行われました。

 会場となった東京海洋大学楽水会館への案内


現地から地元気仙沼の高校生阿部正太郎さん、南三陸町歌津の漁師千葉拓さんの報告。専門家としてNPO森は海の恋人理事で首都大学東京の横山勝英准教授より宮城県沿岸部の防潮堤計画の現状、TRSTのメンバーで東北芸術工科大学大学院の廣瀬俊介准教授から気仙沼市小泉地区の再生試案が示されました。

阿部さん、千葉さんのお話からは、現地の人々の震災時、震災後、そして防潮堤計画が進められる現在の地域の対話、暮らし、心理などが語られ、一筋縄では語れない様々な現地の様子が報告されました。現地の事情を汲むこと無く一律に整備計画を進める県や国の体質的な問題なども報告されました。
国や県の中央防災審議会に端を発した一方的な防潮堤計画が、震災津波で脆弱になった地域のコミュニティに追い打ちをかけるように、地域の人々の対話関係を崩壊させていく様子が語られ、防潮堤建設によって自然を遠ざけることの弊害、防潮堤よりも何よりも人びとの関係を着実に再生することの大事さ、津波に襲われてもなお自然に生かされ自然に学ぶことの大事さなどを、現地の視点から訴えられました。

報告者、左から
東北芸術工科大学大学院廣瀬俊介准教授、首都大学東京都市環境学部横山勝英准教授、
気仙沼小泉地区の高校生阿部正太郎さん、南三陸町歌津地区の漁師千葉拓さん。

また、首都大学東京の横山准教授からは、防潮堤計画の現状実態が報告され、「命を守る」という一律的な国や県のお題目が、地域地区ごとの違いを無視し、生活、命をつなぐ地域の環境を破壊するという行政システム、地域の本当の意味での地域再生を妨げる期限付き復旧政策のメカニズムについて解説がなされました。

そして、東北芸術工科大学大学院准教授の廣瀬俊介氏からは、和歌山県有田郡広村の堤防等を例にとり、延長の長い剛の堤防ではなく、柔軟な受け流すような堤防構造と配置の提案がなされました。



廣瀬准教授の提案は、私が簡単に解釈すると以下のようになります。
現在の防潮堤計画は一律に高い堤をつくり如何にも堅牢なものですが、今回の実際の震災津波のように乗り越えられてしまえば被害を受ける影響はより大きくなり、また被災時の用意のために、日常的な土地利用の自由度と環境の豊かさの享受はなくなってしまいます。
堤防延長を延々と設け無理に津波を抑え抵抗するよりも、受け流すように多少の浸水を許容し、災害時に浸水する場所は普段、自然の海岸や河川に観られる後背湿地のように、湿地公園などにして、地域の環境も守ろうというものです。

自然を遠ざけていけば、察知することが出来なくなってしまう。そして自然が身近だからこそ、そこに学び知恵を働かせ地域で暮らしていける、地域の個性を働かせることが出来る、自然は常に学びの場なのである、という南三陸町の千葉さんのこれまでの暮らしと震災津波の実体験報告と相まって、廣瀬准教授の小泉地区での後背湿地を残すという計画が、常に学び舎となる自然を生かすことで地域を守ることにつながるのだ、ということがよく伝わってきました。

都会生活をしていると周囲の自然の恩恵が如何なるものかわからなくなってしまいますし、例え、周囲の自然環境に恵まれてた地域に暮らす人びとも都会的な利便性に慣れてしまうと自然のありがたさを忘れてしまいがちです。
シンポジウムを通じて、震災津波後、地域の人びとの心の中には、自然の驚異に畏怖の念を感じつつ、自然との折り合いを柔軟につけて生きていくことの大切さを感じ、表立っては防潮堤計画を否定しなくても、現地の誰もが防潮堤を無用のものだと感じていることがわかりました。
そして、また現地地域の外側からの圧力によって、地域の人々の関係が、ギクシャクしてしまっている。薄っぺらでしかし誰もが否定しない抽象的な「命を守る」という言葉をお題目にして事業をすすめ、むしろ「今ある命の行方をないがしろにしてしまう」ということが起きている。
一つ一つの具体的な報告は、地域の人々の人間の信頼関係は「絆」といったその場しのぎの愛想では出来ない、何よりも何よりも丹念に結び直していくこと、一つ一つの事柄に時間をかけてつなぎ直していくしかないということ、それがもっとも地域の回復の最短距離であることを強く感じさせてくれました。

我々TRSTの活動でも同様の事を感じながら現地の踏査、作業を行っていますが、現地では意外と人と話す機会が限られ、またその日の用事に誰もが追われていて、なかなかじっくり話を伺う事が出来ません。今回、このような機会を得て、再びTRSTの「丹念に地域の事象を調べ、記録していくことで、人との関係をつなぎ直していく手がかりを少しでも顕していく」活動作業の意味をはっきりと確認させていただきました。
しかしながら、防潮堤計画は3年を目処に補助が打ち切られ、引き延ばしても5年という期限が地域の人の気持ちをかき乱し煽ります。そのようなこととも折り合いをつけながら、現地内外に実態状況を知って頂く働きかけをし、また知って頂いた人から次の人へと伝えていって頂くことの現実的な必要性を強く感じました。

コラムで、呼びかけ文を付け足す事は少々躊躇するところがあります。しかし、ここはあえてお伝えさせて頂く事とします。震災津波も原発事故もまだまだこれからのことなのです。都会に暮らす人、田舎に暮らす人、皆さん、ただ個人個人で「おもねる」のではなく、はっきりと言葉に出し、日常的な会話で、そしてFaceBookやTwitterで、是非、話題にしてください。よろしくお願いします。

報告者の皆様ご苦労様でした。主催者の環境復興財団の方々も良い企画をありがとうございました。
(田賀陽介 記す)

番外編)
今回の集まりには、元NHKの堀潤さんがおいででした。原発事故後、NHKの報道のあり方に疑義をたて、「市民ニュースサイト8BitNews」として独立された堀さん。元気に活動されていました。
報告の合間に挨拶を交わす、左廣瀬准教授、右堀氏。奥は阿部さんと阿部さんのお父さんが、参加者と談笑しています。






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